2017年12月13日水曜日

20171213

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エスカレーターに乗ると、つい左に並んでしまい、あ、しまった右だった、と並びなおすのを一日繰り返していた。
大阪天王寺は、人でいっぱい。黒やグレイのアウターで、春夏秋よりくすんだ冬の都会。




仕事が終わってから、天王寺をひとりで歩いた。
いつもは、仕事のときも井上と一緒だから、ひとりで来るのははじめて。人がごーっと動くなかで、わたしはなんだかとてもおぼつかない。
ひとりだと、ほしいものが何も目に留まらない。絶対買うと決めてきた無印のシーツ二組が嫌に重くのしかかり、すぐ疲れてしまう。

おいしいものも、別にひとりだと興味もわかないものなのだな。結局、目に付いた一番安く済みそうなサイゼリヤでいつも頼むアラビアータ。茹ですぎて、正体がない食い物だ。

わたしのオーダーしたアラビアータが、わたしの後に、後部の座席に座った女性のもとに間違って運ばれてしまった。
メニューを迷っていたらしい女性は、頼んでません、と断りながら、わたしもアラビアータをください、と言っていた。そのまま食べてもらってもいいのよ。ふふふ。

夕飯は先に食べておくから、一日ゆっくり大阪を楽しんできてね、と言われた手前、なんとか楽しもうとひたすら歩き回っていたけれど、ずっと落ち着かなかった。
ちょうど大阪に来るタイミングでぐっと冷え込んだし、移動や徒歩があるとわかっていたので、とにかく動きやすさ重視で、部屋着みたいなデニムに、履きつぶしたスニーカーを履いてきてしまった。
ショーウインドウのきらびやかな世界、街をゆく、寒さに負けず抜け感丸出しのハイヒールの白い足の甲を見ていたら、わたしがとてもやぼったく思えて、とてもつらかった。
なんというか、わたしはちゃんと自分を装おうことから、とても離れているのではないか。
そう思うと、お店に入ってもちっとも楽しめないものなのだ。

もうだめだーーー、と思ったときに通りかかった、いつもなら高いからと素通りする靴屋で、頭で思い描いてほしいなと思っていたままの靴を見つけてしまう。
黒いエナメルのつやつやのローファーで、幅はありつつも、かかとはしっかり締まっている。ちいさなタッセルがついていて、きらきらと光っている。
見入っていると、スタッフのお姉さんが、まさにその靴を履いて声をかけてくれた。
下手したら同い年かちょっと上くらいのスタッフの人なのに、わたしは中学生がデパートではじめて買い物をするときのように、ひどくてんぱってしまった。

「遠くからきていて、買い物なんてするつもりなかったから、ひどい靴下なんです、だから試着はできなくて、あの、その、でもすごくきれいな靴で、本当に、今日見たなかで、一番すてきです。お姉さんも、とても似合っています。」

しどろもどろのわたしを馬鹿にせずに、ゆっくり話を聞いてくれて、わたしはそれがとても申し訳ないと思った。
お姉さんは、じゃあ、反対向いてますから、大丈夫ですよ。お試ししてみませんか。とこともなげに言って笑った。
わたしはもういたたまれないようなうれしいような、どうしていいかわからないようになって、気づいたらソファに座って靴を脱ぐ羽目になっていた。
靴下が毛玉だらけの超厚手の防寒仕様だったので、お姉さんはストッキングと薄手の靴下を貸してくれ、それを履いてから、ローファーに足をそっと入れる。

わたしの不格好な甲高で幅広の足がすんなりと、ぴったりと収まり、ストッキングで履くと、信じられないくらい履き心地がいい。
こんなことがめったにないので、わたしはじーんとなった。
けれどしかし、そこはダイアナなのである。いちまんえんをぴょんと超える靴は、いまのわたしには高級すぎる。

でも鏡にうつる靴は、あまりにきれいで、さっきまでの人目が怖い感じがさーっと引いていくのがわかった。
ああ、きっと、女性が服を買うのがやめられないのは、こういうことなのだなと思う。
自信のなさや、恐怖を超えていくために、前をむいて堂々とするために、人は服や靴やバッグを買い求め続けるんだなぁ。
きっと、今日すれ違ったきらびやかな女性たちも、同じように不安だったりするのだ。
皮膚の一枚下にある不安定なものを、服がやさしく守っている。

わたしは、思いきって買うことにした。
井上はどう思うかとか、また無駄遣いだろうか、とかすごく考えた。でも、わたしにはこれが必要なのではないか、と思ったのだ。

でも金額の大きさにわたしは完全にビビっていて、買った後、緊張して顔がほてって外したファーティペットを落としてなくし、1時間再び天王寺を探し歩く羽目になったのであった。

身分不相応のものを買ったからこんなことになったのだ……とむやみに落ち込み乗った電車は、さらに他の駅での人身事故の影響で一時ストップしてしまい、わたしは泣きそうになった。

柏原駅で降り、靴を買ったうれしい気持ちは吹っ飛び、ひたすら下を向き、耐えるみたいに競歩みたいなスピードで家に帰る。
家に着いているオレンジ色の明かりをみたとき、体からふーーーーーっとつらい気持ちが抜けていった。
おかあさんが心をこめてつくってくれたお夕飯を食べ、3人で一緒にテレビを見ているうちに、生きた心地が胎の底から広がってくるのがわかった。
そして井上のことを思った。

落ち着いて、買った靴をほどく。
すると、新品なのに、気になるスレがあることに気づいた。エナメルなので、余計目立つ。
明日、お店に入って、交換できるなら、このまま、買って大事に使おう。
その場で交換できないなら、申し訳ないのだけれど返品させてもらおう。
もう、縁ということにしてしまおう。
縁があればきっと持って帰ることになるだろう。
それでいいや。

明日柏原から田舎に帰る、すこしさみしいけど、井上に会えるのもとても楽しみ。帰ったらおいしい料理をつくろうと今から考え、少し疲れたみたいで、意味もなく涙が出る。


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