2016年11月26日土曜日

遠足、ブックカフェ、キャンドルお風呂

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ひょーるる!

目が覚めても寒くて布団のなかでもだもだしていたけど、鳥の高い声でやっと布団をはいで起き上がる。そのまま深呼吸。肺がすーんとするような、ハッカみたいな空気。冬の空気だ。




朝ごはんの準備をしていると、井上が「おつゆや!」と叫んだ。
えっえっえっと言いながら、窓の外を見る。どこにいるかわからない。どうやら、離れた場所のよう。慌ててスリッパをサンダルに履き替えて、二人で転げるように、でも静かに玄関から外へ出た。

先に飛び出した井上が、すぐ振り返って言った。
「…鳩やった」
なにそれー!と爆笑する。驚いて飛び立つ鳩。…鳩?
いや、それはカラスだった。井上、朝から飛ばしているな。

しかし、あまりに良い天気。冬の空気だと思ったけど、日の元では、肌はほのかにあたたかく、むくむくとしあわせが湧いてくるよう。
急遽、家にある材料で、ソースしみしみのコロッケとルッコラのサンドイッチと、いつもの厚焼きたまごのサンドイッチを作って、パラフィンで包んでお弁当に。お茶はほうじ茶。井上が気をきかせて、ちいさなみかんを二つと、おいしい高級なポッキー(いただきもの)もリュックに詰めた。
動きやすく、あたたかい服装に身を包んで、いざ、秋の遠足に出発。

行き先は、とりあえず、いつもの新宮。
距離をちゃんと測ったことはないけど、家を出てすぐ、青い道路看板で「新宮 10km」の文字。なんてキリが良く、ちょうど良い距離だろうか。

いつもバイクで走り慣れた道なのに、歩くとぜんぜんちがう。しまいのむかごを採り集め、真っ赤になった野イチゴを口に放り込みながらどんどん歩いて行った。

途中、お腹が空いて、川沿いに座って、サンドイッチのお昼ごはん。高校時代の話なんかする。
ときにみなさんは、高校に食堂なんてありました?わたしの高校には、購買しかなくって、高校に食堂があるなんて、なんて大人なんだろう!って思うんだけど。井上の高校にはあったんですって。

カモさんの群れが、わたしたちの歩調に合わせて川面をばーっと飛び立つ。カモはなんだか一生懸命に飛ぶなぁ。たとえば、燕なんか、燕自体が風になったように飛ぶけれど、カモさんは、一生懸命に羽ばたいて、えんやこらと飛び立つ。上空で風に乗るまで、なんだか大変そうで、それがすごくいいなと思う。

そうこうしているうちに、あっという間に熊野川沿いへ出て、熊野大橋を渡って、和歌山県の新宮市内へ。
歩いて県境を越えるって、なんだか妙な気分。

熊野大橋のおとなりには、もうふたつ、ちいさな橋がかかっている。ひとつは、2車線の車道で、もうひとつが歩行者専用の歩道。この歩道がすごく良い感じ。二人並んだらいっぱいいっぱいくらいの幅で、車や歩行者の振動で、けっこう、わぁんわぁんと揺れる。向かい側からやってくるおじさんの歩みで橋がたわむ。おじさんの足元は、きっとわたしたちの重みで揺れているんだと思うと、楽しくなる。

鳩の群れがばーっと飛んできて、車道の方の橋の鉄骨に並んでとまるんだけど、そのとき、ちゃんと、一羽一羽、スペースを等間隔に開けてとまるのだ。それがたしかなプライバシーを感じさせ、わたしたちのつぼに入った。


今日の目的地は、新宮のTSUTAYAに併設されているブックカフェ。何か頼むと、ゆっくりソファに座って、本屋の本を読むことができる。横浜ではスタバに併設のブックカフェには本当にお世話になった。こんな田舎ではそんな期待はできないと思っていたのに、とてもありがたい。

カフェの一等良い席に座って、ケーキとお茶をしながらまったりときを過ごす。気が付いたら、日は暮れていた。お隣のスーパーで、こちょねの缶詰や、切れていたローリエ、牛乳など買って帰路に着く。

帰りのとおりみちの商店街が、とても良い味。



生きているのに、死んでるみたいな、あの商店街独特の空気が充満している。
中上健二の路地のにおいがする。



朽ちっぱなしのものが平気でそこかしこにある。でも、その中に、まだまだがんばっている、大きなブティックや、病院が混じり、当時の最新家電、電気炊飯ジャーの広告、横の路地には、「パチンコ21世紀」の看板。古い印刷所の、古いインクのにおい。細いどん詰まりに、怪しくひかる喫茶店のネオン。

うーん、タイムスリップ。

帰り道は、とっぷりと暗かった。いつもとはちがう道、歩きやすい、道を選んで歩く。見上げると、とんでもない細かな星々。ぷつっと大きな星だけじゃなくて、霞むような、霧のような天の川まで見えてくる。
片道2時間、ずっとしゃべって歩く。二人で行った東京の島の話。お互いが知らない、昔話。突如現れた自販機のなかから、一番飲みたいものを選び、買わないという遊び。村の噂話や、これからのこと。尽きないまま、家に着く。

全然平気!と思っていたけど、脚を止めたら、じーんと疲れが上がってきた。
負けじと、畑の小松菜と、冷蔵庫の残り物で、おいしいちゃんぽん麺を作って、食べた。あったかいものが底の方にひたひたになる。

久しぶりにキャンドルを灯してお風呂に浸かる。足が、細胞が喜んでいる。脚をマッサージしあいながら、どろんどろんになっていく。わたしたちは、お酒は全然といってよいほど飲まないけれど、二人のあいだにある空気とか会話とかに常に酔っているみたいだ。特に、今日みたいにたくさん歩いて、たくさん喋った日には。

眠っているみたいな調子で、一仕事して眠る。大事なことは明日に残しておく。
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