2016年10月26日水曜日

水があふれる場所、家族、つま先の安堵

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昨夜、やっぱり四時ごろまで目が冴えていて、朝はとてもじゃないけどすっきりとはいかなかった。八
時くらいにはうっすらとまぶたが開いて、立ちあがるまでに一時間、ベッドの中から窓の外のあたたかい黄身がかったひかりを見ながら、起きているのと眠っているのの中間で手を引かれていた。




えいっと気合を入れて起き上がり、冷蔵庫の中のパン生地を出して、かんたんに成形して短時間二次発酵させているあいだに、井上が回してくれた洗濯機の中身を干し、今度はシーツと冬物衣料の洗えるものを突っ込んで、2回目の洗濯。

ばたばたしているうちに、おとうさんとおかあさんがやってきた。今日は、お楽しみの、井上家の持っている山の土地に行くのだ!

出発前、急いで焼きあがったパンをマーガリンでさっと食べる。もう、これがなんとも言えず絶品であった。スーパーのパンにはない、粉と水とイーストと、ほんのすこしのはちみつと塩だけとは思えない、奇跡みたいなおいしさだなぁ、と感動しながら夢中で食べた。

パンを作ってくれているのは、イーストだから、わたしはなんにもしない。できるだけ生地を傷めないように、そっと作って、冷蔵庫で眠らせるだけ。
パンに限らず、できるだけ手を加えない方がおいしいもののほうが、実は多いんだと最近思う。


みかんやお茶を持って、4人で出発。家から歩いてすぐのところに山の入口があって、そこから自分ちの土地のところまでたどり着くのに、40分くらいだろうか?
ハイキングというには、険しすぎる道。ぬるぬるの藻が生えた岩に、朽ちた木が倒れた山道を、痛いちくちくの生えた草を踏みながら、1列になって進んだ。


水は、ただ清かった。水がそこかしこから湧き出して、水たまりをこえて、泉のようになった場所には、やわらかい空気がすーっと立っていた。粒子のちいさな、ベージュや白の砂がさらさらと溜まっている。なんか、嘘みたいにきれいだった。

木立の間から差し込むレンブラント光は、そのまま昔のひとびとも見た神さまそのままのようだったし、昔棚田として使われていた山の中の土地は、まるで神秘の遺跡みたい。

こんな場所に、これからいくらでも来られるという喜び。

測量地図を見ながら、案内してもらう。目印になる岩山や、大きな岩、段々、川のうねりなどに、頭のなかですてきな名前を付けながら歩いた。
さいきん、山に好き好んではいるのは漁師さんくらいで、わたしたちみたいに、採集や場所づくりがしたくてくるひとなんか、変わり者くらいなんだそう。確かに、ここはハードだけど、わたしたちにとってとても大切な場所になるだろう。

山芋の見つけ方、山いちごの葉のかたち、山ブドウのある場所、わたしたちの知らないことを教えてもらう。わたしたちがもっと大人になったとき、そんなことを知っているひとって、ちゃんと残っているのかな。それは現代ではあまりにか細い「どうでもいいこと」に分類されてしまうのかもしれない。
手間のかかることが、どんどん切り捨てられていくのは、とてもさみしいことだと思う。

4人で、おにぎりと、たまごやきと、パンと、みかんを食べる。4人で倒れた木をベンチにして横並びになって。なんにも特別でもないくせに、きっとわたしはこういう日のことをずっと覚えていようと思う。


みんな、体は疲れていたはずなのに、なんだか楽しかったから、その後、近くの堤防に釣りにも行った。途中でさびきの釣り具も買って、夕方の海へ。
ちらほら釣っているひともいたけれど、結局連れたのはフグ(小さいの4匹、大きいの1匹)だけだった。ぜんぶリリース。でも、フグはよくみたらとてもかわいく、触っても滑らかで愛らしかった。膨れた腹をそっと触るとしゅるーっと息を吐くみたいに、ちいさくなっていった。

向こう岸で、製紙工場のランプがまばゆいオレンジのひかりが黒い海面に落ちて揺らいでいた。

腹を空かせた猫が一匹、熱烈にやってきて、餌にとびかかろうとする。結局、この日、いちばん連れたのはこの猫だったな。(食べさせてあげるものが何も釣れなくて、ごめんね)


以前から話に聞いていた、熊野のお好み焼き屋さんへ。わたしたち、ひどく腹ペコで、出されるものすべてがおいしくて、必死になって食べた。さっきの猫みたいに。
店主のおばさんのやさしさを、そのまま料理にしたような、おしゃれすぎない、やさしい味が胎の底まで染みこんでいった。安くて、おいしいところはいっぱいあるし、安くて気持ちの良い店もあるけど、安くて、おいしくて、気持ちの良い店というのはなかなかない気がする。まさに、そんなお店だった。

来ているお客さんも、みな俗っぽく人間味にあふれて、土地のにおいがして、ここに住んでいるということが嬉しくなる時間だったな。


帰ってきてから、残った仕事をわーっとやる。まぶたが下がってくるけど、筋トレもやるし、お風呂にも入る。
今、真剣にダイエット中なので。
せっかくがんばっているのに、体重計の調子が悪くて報われない。新しいの買おうかな。わたしは本気だぞ。井上もわたしも、とにかく健康であることだ。それ以外は、大丈夫なんだから。


なんだか、良い感じだ、と思う。


わたしはいま、良い感じだ。まだ少し余裕は足りないけれど、大丈夫。地につま先が付いてきているという感じ。ゆっくり何年もかけて、かかとを降ろしていくんだろう。心と口のあいだにある器官で、何度もきれいな思い出を反芻しながら。


目を閉じるとまだ山の空気や水のにおいがちゃんと残っていることがわかる。きっと今日は、さらさらと流れるような夢を見るだろう。



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