2016年9月22日木曜日

中上健二、図書館、コメダ珈琲

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わたしは、昨晩からわくわくしていた。
そのわくわくというのは、遠足のときの、そういう感じ。結局寝付いたのは朝の5時過ぎ。起きたのは正午も回ってから。頭を抱える。でも、気を取り直して、おでかけの準備。

そう、今日は、念願の図書館に行くのだ!



引っ越してからというもの、ずーっと頭の片隅で「行きたい、行きたい」と小さなわたしが言いつづけていた。9月中には絶対行こうと決めていて、前半は帰省でばたばたして、帰ってきたら長雨と台風で、すっかり今になってしまった。
うーん、「行きたい」が溜まっているぞ!

曇りのち雨の予報だけど、まだ空は持ちこたえてくれている。今のうち、とふたりでバイクに飛び乗って、一路いつもの新宮へ。
熊野川から42号線、裁判所前の交差点を左折。直進して、みどりのホロのたばこ屋さんの角を右。ちょっと走れば正面に見えてくる、ちいさくて古い図書館。

入った瞬間から、うぶげが逆立つみたいに興奮した。ここにある本が全部ただで読めるなんて!好きな本を貸してもらって家で読むことができるだなんて!鼻息荒く、本棚に貼りついて探す。

わたしは、小学生のころから本がほんとうに好きだった。中学校のころには、夏休みには50冊くらい読んでいたし、読んでも読んでも楽しくて、本棚のあ行から読んでいくもやった(効率が悪いと気づいてすぐにやめた)。

そのころわたしの遊び場は、志摩市立図書館
今見ても、とても立派で蔵書も多く、あんな田舎にどうしてこんなに立派な図書館があったのか、と不思議になる。週に一度は、親の用事に着いて行って、図書館で放り出してもらって、あきれるくらい読んだ。ジャズのCDなんかもたくさんあった。1週間分の本をまとめて借りて、外の池のまわりのベンチや、目の前にあるshu cafeでコナブレンドのコーヒーを飲みながら飲むのが楽しみでしかたなかった。

高校に入ってなかなか行けなくなった挙句、友人と一緒に、飲食禁止の図書館のPCルームでうっかり手作りの出汁巻きを食べ、見つかって怒られて追いだされてから行ってない。そんなあっけなくつまんない最後だったけど、今でもわたしの青春はあそこに詰まっている、という気がする。

とりあえず約1週間分、7冊の本を借りた。

新宮といえば、中上健次。というわけで、図書館の3階には中上健次の資料コーナーが設けられているみたい。
10代で「枯木灘」をはじめて読んだ。その時は、あまりに人物が生臭すぎて、次に手が伸びなかったけれど、今、アラサーになって読む中上健次はすさまじい。
こっちにきて、KAAT(神奈川芸術劇場)の舞台のお手伝いをしたことをきっかけに、中上健次が新宮出身の作家であり、新宮を描きつづけていたと知った。まずは舞台で出会った「日輪の翼」を読み、すっかり憑りつかれたようになり、今は「千年の愉楽」をじくじくとしつこく何度も読んでいる。

「路地」の描写から、ありもしない夏芙蓉のにおいが確かににおってくるよう。えぐいほど性描写も多いけど、それよりも、それ以外の部分、登場人物たちのふと見せる弱い姿や、神々しいような人間らしさ、可愛らしさにわたしは惹かれ、感動し、ちょっとだけムラムラする。
新宮の街を見る目が変わってしまった。わたしの中に路地が伸びてくる。

自転車のパンク修理キットなど必要なものを買って、恒例のコメダ珈琲へ。

横浜のときのスタバが、そのままコメダになっただけだ。落ち着けるばしょだったらどっちだっていい(ただし、コーヒーは全然おいしくない。珈琲店って書いてあるのに)。赤いびろうどのすみっこのボックス席がわたしたちの定位置。店員さんはぜんぜんかまいにこないし、テーブルの上にメモ紙をひらいて、これからの戦略をふたりでじっくりと練る。飽きたらフライデーとか週刊現代とかできるだけ下世話なものを選んで読む。

ここは、働いていない(いや、わたしは在宅で働いてるって言っていいと思うけど)わたしたちにとって、「休日」という場所だ。家にいると、朝も昼も平日も休日もありゃしないので。

お会計を済ませて出たら、雨がどしゃぶり。とりあえず、レインコートを着て、となりのドラッグストアで日用品など買って雨が上がるのを待つ。
途中から、お腹が減り過ぎて胃が痛いし、顔色も蒼くなってくらくらしてきた。しょうがないね、と安売りのポテトチップスを買って、お店の前のガードレールみたいなのによっかかってむしゃむしゃ食べた。

店の正面側だし、車で人も来るけど、なんかわたしは井上と色んなところにバイクで旅をして、そのつどどうしても辺鄙なコンビニのよこっちょとか、車止めの上とかでカップラーメンをすすってきたからか、こういうことが平気になってしまった。

車がないとこういう時困る。どうしようもなく下品だけど、すごく自由でもあり、なんか逆にムードがあるような気さえしてくる。雨も降っているし、指までしょっぱくなって、ダサくて安い体に悪いものを、こうして無表情で食べているのが、ぴったりすぎてちっとも恥ずかしくない。それは路地のわたしという感じ。

ちょうど食べ終わるころ、小雨になった。今のうち、とバイクで走りだしたけど、熊野橋を渡って、相野谷川沿いの道に入ったあたりで、雨がまた本格的に降り出した。でも、ぜんぜん嫌じゃなかった。メットを、肌を雨粒が弾いていって、後ろに流れる筋になる。ただ、井上のむき出しの両手が暗闇の中で白っぽく、いたたまれないような気がした。

夜ごはんは、自家製ジェノベーゼのパン粉のパスタ、もやし酢、ささみとエリンギのグラタン、空芯菜のオイル煮。
グラタンの上に、庭のディルとイタリアンパセリをとってきて散らす。こういうのがわたししたかったんだよ、ってすごく思った。青くておいしいにおいがする。

夜のなかをまだしつこく雨が降っている。

湯船に湯を張り、そこにココナッツオイルを2さじ。なめらかに保湿され、あたたまって、良いものになったような気分。花の香りの香水を白い下っ腹にそっと振り掛けて、今日もおそがけに布団にもぐりこむ。



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